決議・声明

踏み字国賠判決に関する声明

2007.01.25

1 平成19年1月18日に、鹿児島地方裁判所は、鹿児島県警察本部の警部補が川畑幸夫さんに対して、取調べの際に志布志警察署取調室で、親族の名前などを自ら書き記した紙三枚を少なくとも3回踏ませ、いわゆる踏み字を強制するという不法な有形力を行使し(以下「本件踏み字」という)、また、任意捜査における退去の自由を制約し、令状なしに身体の捜索をするなどの違法行為により、川畑幸夫さんに精神的苦痛を与えたとして、鹿児島県に対して、金60万円の支払いを命じる判決(以下「本件判決」という)を言い渡しました。

本件判決は、本件取調べにおける警部補の違法行為、とりわけ本件踏み字においては、その取調手法が常軌を逸し、公権力をかさにきて川畑さんや関係者を侮辱するものであると厳しく非難しています。一般市民が耳を疑うような、そして、嫌悪感を抱く本件踏み字のような前近代的な密室における取調べ手法が、いまなお横行し、これを是認する警察組織に対し、警鐘をならした画期的な判決であると評価できます。

とくに、本件判決は、本件踏み字は警部補が川畑さんに反省悔悟を求めるべく職務熱心の故に行ったもので許されるなどという鹿児島県の主張を全て退けました。本件踏み字は、たとえ1回であっても、川畑幸夫さんに対する違法な有形力の行使であって断じて許されない違法行為です。取調手法としてかかる違法行為を容認する主張をしてはばからない鹿児島県、とりわけ警察組織の認識が、いかに社会の常識から逸脱しているかを明快に指摘している点で、裁判所の見識を示しており、この点でも極めて妥当なものです。

2 本件判決は、いかなる場合でも踏み字のような常軌を逸した取調べが許されないこと、踏み字を強制することは、たとえ1回だけ足先を紙に乗せたとしても、決して許されないこと、本件踏み字を強制した警部補を庇い、正当化しようとする警察組織の態度を厳しく非難し、警察組織の体質自体の改革が必要であることを示唆しています。このことは、本件判決が仮執行宣言の免脱を認めなかった点に端的に示されています。

そもそも今回の事件は、密室取調の弊害を除去し、適正な捜査を実現することが、刑事司法の喫緊の課題であることを如実に物語るものであり、鹿児島県を代表する知事及び鹿児島県警察本部長が、本件踏み字のような「常軌を逸した」違法な取調べを放置することは断じて許されません。

3 今回の事件の背景には、何が何でも自白を獲得したいという自白偏重の捜査機関の姿勢があります。自白獲得のため密室での過酷な取調べが冤罪を生み出す温床となっていることは、繰り返し指摘したところです。それ故に、取調室での自白の獲得過程を監視し、事後に検証できるための制度が必要不可欠です。かかる制度の実現は、民主国家における国民の要求であり、世界の刑事司法の趨勢です。

鹿児島県弁護士会は、本件判決を受け、改めて、取調べの際には、最初から最後までビデオ機器で録画・録音する制度の導入を強く求めます。これにより、取調過程の事後検証が容易になり、真相の解明ができます。また、その事により、人質司法の改善と違法な取調べの防止が期待できます。よって、早急に「取調べの全過程の可視化」が実現されるべきです。

4 鹿児島県弁護士会は、鹿児島県知事及び鹿児島県警察が本件踏み字事件判決を真摯に受け止め、同様の違法な取調べを防止する措置を早急にとること、そして、取調べの全過程の可視化を実現することを強く求めるものです。

以 上

2007年(平成19年)1月25日
鹿児島県弁護士会 会長 川村 重春

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