決議・声明

無罪判決を契機に取調べの全面可視化を求める会長声明

2010.10.05

2010年10月5日
鹿児島県弁護士会会長 鳥丸 真人

2010年9月10日、大阪地方裁判所は、元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長に対して無罪判決を言い渡し、同判決は、大阪地方検察庁が上訴権を放棄して確定した。当会は、この確定判決を受けて、あらためて取調べの全面可視化の早期実現を強く求める
元局長は、課長時代に、当時の部下らと共謀して、心身障害者団体としての実体のない組織に対し、虚偽の公的証明書を発行したとして、有印虚偽公文書作成・同行使の嫌疑で、2009年6月14日に逮捕され、同年11月24日まで5か月以上も保釈が認められず、身柄を拘束された。この事件で、検察官が元局長を起訴し公判を維持するよりどころにしたのが、捜査段階で作成した元部下らの供述調書である。検察官は、捜査段階で作成した供述調書を「信用すべき特別の情況」があると主張して証拠調請求した。しかし、大阪地方裁判所は、2010年5月26日、その大部分について、元部下が勾留中に記録していた被疑者ノートの内容等に基づき、この「特信性」を否定して証拠調請求を却下する決定をした。
上記証拠決定及び上記判決により、取調室という「密室」において、取り調べる側と取り調べられる側という圧倒的な力関係の差のもと、被疑者が取調官の予め描いたストーリーに沿った内容虚偽の供述を押し付けられる取調べの実態が改めて明らかになった。これまでも、検察官がその見込みどおりに虚偽の供述調書を作文し、冤罪が繰り返されてきたが、最近でも、志布志事件、富山県の氷見事件、栃木県の足利事件など、枚挙にいとまがない。
ところで、志布志事件や氷見事件では、その無罪判決後に最高検察庁自らが検証を行い、捜査の問題点として、供述の信用性吟味が不十分であったと総括している。しかし、これは、志布志事件等の捜査手法の本質、すなわち検察官自体が真相解明義務及び虚偽供述防止義務に違反し違法不当な取調べを行っている現実に目を背けたものである。捜査機関は志布志事件等の経験後もこの本質から目を背け、取調べの現状を温存してきた。厚労省元局長事件は、大阪地方検察庁特捜部検事によって志布志事件や氷見事件と同様の取調べ手法が繰り返され、冤罪事件となったものである
志布志事件では、多くの人が密室で虚偽の供述を強要され、捜査機関の描くとおりに事実が虚構された。もし志布志事件の反省の上にたって取調べの全面可視化が実現され、元部下に対する違法不当な捜査を抑止していれば、元局長が逮捕・起訴されることはなかったと考えられる。今後、元局長のような冤罪被害者を生み出さないようにし、市民を冤罪や不当な身体拘束から守るためには、上記事件のような違法不当な捜査を抑止すべく、被疑者はもちろん、少なくとも、共犯者と目されて取調べを受けている者についても、取調べ状況を客観的に記録・検証するシステムとして、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)が不可欠である
上記事件は、取調べの全面可視化の実現が、もはや一刻の猶予も許されないことを如実に示している。志布志事件を経験した当会は、上記無罪判決を契機として、あらためて取調べの全面可視化の即時開始及びその立法化を強く求めるものである。

以上

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