決議・声明

会長声明 -被疑者・被告人と弁護人の秘密交通権の侵害を許さず取調べの可視化を-

2011.07.15

福岡高等裁判所は,本年7月1日,佐賀県弁護士会所属の弁護士が担当していた刑事事件につき,弁護人と被疑者との接見内容を,検察官が被疑者取調べにおいて聴取し,供述調書化した上,公判において証拠として請求したことが,弁護人の秘密交通権を侵害するとして提起していた国賠訴訟について,佐賀地方裁判所判決を変更し,国に55万円の支払を命じる判決を言い渡した。
原審である佐賀地方裁判所判決は,秘密交通権の権利性を一応は認めたが,捜査機関の捜査権に優越するものではないとし,検察官が接見内容を聴取することが違法かどうかは「聴取の目的の正当性,聴取の必要性,聴取した接見内容の範囲,聴取態様等諸般の事情を考慮して」判断すべきとした上,結論において本件検察官の行為は違法ではないとしていた。これに対し,原告側が,原判決の示した基準は、取り調べの可視化がなされていない現状においては基準足りえないものであるとして控訴していたところ,本件控訴審判決では,本件検察官の行為は刑事訴訟法第39条第1項の趣旨を損なうものであり違法であると判示した。
弁護人と被疑者・被告人との秘密交通権については,既に鹿児島秘密交通権侵害訴訟(志布志選挙違反事件の接見国賠訴訟)において,捜査機関が,立会人なくして行われる弁護人と被疑者・被告人との接見内容を事後的に聴取することが,双方の情報伝達や援助に萎縮的効果を生じさせるものとして秘密交通権の侵害となることが明確に判示され,しかも,上訴されることなく確定していたところであり,本判決は改めて秘密交通権の重要性を確認したものである。
さらに,本判決は,取調べで被疑者が接見内容を話し始めたときは,捜査機関は,これを漫然と聴取してはならず,接見内容を話す必要がないことを被疑者に告知するなどして秘密交通権に配慮すべき法的義務も認めた。このように,本判決は,鹿児島秘密交通権侵害訴訟の延長線上にあるものであり,捜査機関による接見内容の聴取を違法とした高裁レベルの初めての判断として重要な意義がある。
他方で,本判決は,弁護人が報道機関に対して被疑者の供述の一部を公表したからといって,供述過程を含む秘密交通権が放棄されたとは認められないとしつつも,そのような供述を被疑者がした事実自体の秘密性は消失したとして,検察官が被疑者に対し,報道された供述を弁護人にした事実の有無やそのような供述を弁護人にした理由を尋ねた行為に限っては違法でないと判示した。
しかし,被疑者の供述に関する報道機関の情報源が捜査機関の発表に限られており,捜査機関が報道内容を事実上コントロールしている現状のもと,これに対抗して正しい事実を報道機関に公表することは,事件に対する誤った認識を是正するために必要な弁護活動であるところ,本判決の「秘密性の消失」論によれば,報道機関への公表が捜査機関の秘密交通権への介入の口実を与えてしまうことになるため,今後このような弁護活動の萎縮を招く事態が懸念されるという問題が残った。
とはいえ,本件は,弁護人と被疑者・被告人との秘密交通権が,充実した情報伝達を確保することで相互の信頼関係を形成するとともに,有効かつ適切な弁護活動を可能ならしめるための最も重要な基本的権利の一つであることを高裁が初めて認定するという大きな成果を得た。
当会は,検察庁その他捜査機関に対し,今回の判決を真摯に受け止め,弁護人と被疑者・被告人との秘密交通権が憲法に由来する最も重要な権利の一つであることを十分に認識し,本件と同様の秘密交通権の侵害行為が繰り返されることのないよう強く求めるとともに,このような違法捜査や秘密交通権侵害を防止し,事後的な検証を可能ならしめるためにも,直ちに取調べの全過程の録音・録画(可視化)の実現を求めるものである。

2011年(平成23年)7月15日
鹿児島県弁護士会
会長 福元 紳一

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