決議・声明

「袴田事件」第2次再審請求即時抗告審決定に対する会長声明

2018.06.12

東京高等裁判所第8刑事部(大島隆明裁判長)は,2018年(平成30年)6月11日,いわゆる袴田事件第2次再審請求事件(請求人袴田ひで子,有罪の判決を受けた者袴田巌)について,検察官の即時抗告を認め,静岡地方裁判所の再審開始決定を取り消し,再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。
袴田事件は,1966年(昭和41年)6月30日未明,袴田巌氏(以下「袴田氏」という。)が,当時の勤務先である味噌製造販売会社の専務宅に侵入し,一家4人を殺害し金員を強取した後,放火したとされる事件である。袴田氏は,逮捕後,1日平均12時間,最高16時間余に及ぶ過酷かつ違法な取調べにより自白したものの,第1回公判期日で否認した後一貫して無罪を主張した。ところが,事件発生から1年2か月後に味噌醸造タンクの中から発見されたという5点の衣類が,袴田氏の犯行着衣と認定され,静岡地方裁判所により死刑判決が下され,1980年(昭和55年)11月最高裁判所が上告を棄却し同判決は確定した。
裁判所は,第1次再審請求を認めなかったが,2014年(平成26年)3月27日,第2次再審請求審の静岡地方裁判所は,5点の衣類に関する本田克也筑波大学教授のDNA鑑定(以下「本田鑑定」という。)及び血痕の付着した衣類を味噌漬けにする再現実験の報告書等を新規明白な証拠として認め,しかも,5点の衣類について警察によるねつ造証拠の可能性を認めて,本件について再審開始を決定し,死刑の執行停止をするとともに,「これ以上拘置を続けることは耐え難いほど正義に反する」として,拘置の執行停止も認めた。袴田氏は47年7か月ぶりに釈放された。
検察官が即時抗告を申し立てた即時抗告審では,原審で高く評価された本田鑑定の鑑定手法の有効性,開示された取調べ録音テープ等により明らかになった袴田氏に対する違法な取調べの実態などが重要な争点となった。
本決定は,原決定において明白性を認めた「本田鑑定及び味噌漬け再現実験報告書の証拠価値はいずれも低」いとして明白性を否定し,その他の新証拠についても新旧証拠の総合判断の中で「確定判決が認定した袴田氏の犯人性に合理的な疑いを生じさせる証拠価値を有するとはいえない」として,原決定を取り消し,再審請求を棄却した。
本決定は,原決定が明白性を認めた新証拠である本田鑑定を否定した。本決定の論理に従うならば,およそ科学的な進歩による新規明白な証拠の採用が閉ざされてしまう。さらに,味噌漬け再現実験報告書の証拠価値を独自の観点から弾劾して不当に低く評価している。そして,捜査官による違法な取調べや証拠ねつ造,証拠隠し等刑事第1審であれば到底有罪認定を否定されると思われる再審請求の過程で明らかになった事実をあえて過小に評価するものであり,「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則を再審事件にも貫徹させた白鳥・財田川決定に反するものである。
本決定は,静岡地方裁判所が構築しかけた人権の砦として裁判所(司法過程)に期待される役割を自ら放棄したものと言わざるを得ない。袴田氏が高齢であること,しかも死刑事件でもあることに鑑みれば,本決定は,袴田事件に真摯に向き合った内容とはいえない。当会は本決定が結論においても理由においても正義に反する不当なものと考える。
一旦再審開始決定がなされたにもかかわらず,迅速に無罪判決を得ることが妨げられ人権侵害の状態が続いていることは弁護士が使命とする基本的人権の擁護と社会正義の実現に反する事態である。
当会は,現在最高裁判所に特別抗告審が係属している大崎事件第3次再審請求事件(請求人原口アヤ子外1名)を支援しているところであるが,今後とも袴田事件でも明らかになった再審制度の問題点を指摘し改善を求めていく所存である。

                     2018(平成30年)年6月12日
鹿児島県弁護士会
会長 上 山 幸 正

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