決議・声明

「少年法等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明

2005.08.01

政府は、本年3月1日「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。 )を第162国会に提出した。この改正法案の提案理由は「少年非行の現状にかんがみ、これに適切に対処するため、警察官による調査手続、14歳未満の少年の少年院送致、保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守しなかった場合の装置等に関する規定を整備するとともに、裁判所の判断により国選付添人を付する制度を新設するための所要の規定を整備する必要がある。 」というものである。上記改正点のうち非行事実に争いがない場合であっても、家庭裁判所の職権で国選付添人を選任できるとする制度の新設は賛成である。しかしながらその余の改正点については以下の理由により当会は反対である。

1.触法少年及びぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与について
 改正法案は触法少年及びぐ犯少年に対して警察の呼び出し質問などの調査権を認め、さらに触法少年に対しては捜索、押収等の強制処分手続を認めている。しかしこれは現行法上犯罪ではないこれらの少年に対する福祉的な対応を後退させ犯罪捜査をその職務とする警察権限の拡充によって解決しようとするもので到底賛成できないものである。たしかに触法少年に対する調査や処遇の現状に不十分な点があることは認めざるをえないが、これに対しては児童相談所をはじめとする福祉関係機関の強化によって対処すべきである。そもそも取調べの可視化が実現していない現状では被暗示性や迎合性が強い少年に対し、児童の福祉や心理に専門性を有していない警察官が中心となって調査を行なうことは誤った供述を引き出す危険性が高く虚偽自白につながり、むしろ事実解明が遠のいてしまう危険性がある。またぐ犯少年について、その少年が将来犯罪を犯すおそれがあるか否かといった事情は、福祉的な観点からの判断が不可欠であり、警察官が中心となって少年から事情を聞き、学校等の公務所に照会する等してこれを調査することは少年の立ち直りの環境が悪化することが懸念され不適当といわざるをえない。

2.少年院送致の下限年令の撤廃について
 14歳未満の少年については、現行法では児童自立支援施設における矯正教育が予定されているが、改正法案は、少年院送致が可能となる。年令の低い少年を家族から分離して更生をはからねばならない場合、家族的な雰囲気のもとで人間関係を中心とした生活力を身につけさせることが必要であり、現行法はこのような理念のもと、児童自立支援施設を設けているのである。このような観点から低年令少年に対しては施設収容する場合でも福祉的、教育的、個別的対応を専門とする児童自立支援施設での処遇こそが適切である。児童自立支援施設においては、低年令の少年に対する福祉的処遇を行うべく多大の努力がそそがれ、そこにおける処遇も一定の評価がなされる中、一層の専門性強化、そのための人的物的資源のさらなる充実が求められているところである。にも拘らずこのような児童自立支援施設の充実に着手することもないままに、少年院送致年令の下限を撤廃することは反対である。

3.保護観察中の遵守事項の違反を理由として少年院等への収容を可能とすること
 保護観察は、少年が自ら立ち直る力を育てるために保護監察官や保護司が少年に対し粘り強く働きかけをしながら、その少年との信頼関係を形成しつつ、少年の改善更生を図るという終局的保護処分である。しかし改正法案は新たな非行事実もないのに遵守事項違反を理由として、現に保護観察処分を受けている少年を新たに少年院に送致できるとするものであって、憲法上の一事不再理、二重処罰の禁止に実質的に反するものである。また、改正法案は、少年院送致を威嚇の手段として遵守事項を守るように少年に求めるものであり、このような関係の中では保護司と少年の関係も表面的なものとなり、真に少年の立ち直りを図ることができなくなってしまう。それは無償のボランティアである保護司に支えられ、おおむね良い成果を誘ってきた保護観察制度を本質的に変容させるおそれがある。したがって、改正法案のような措置を導入することは保護観察に悪影響を及ぼすものであり反対である。

2005年(平成17年)8月1日
鹿児島県弁護士会
会 長  木 山 義 朗

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