決議・声明

秘密交通権の侵害を許さず、取調べの可視化を求める宣言

2005.10.28

2003年4月に施行された鹿児島県議会議員選挙の公職選挙法違反事件の捜査において、捜査機関が組織的に被疑者・被告人と弁護人の接見内容についての詳細な取調べを行い、その供述調書を多数作成したばかりか、これを裁判所に提出して、国選弁護人を解任させる根拠とし、さらには、罪体立証の証拠として請求するという事態が発生した。
 本来、被疑者・被告人は、立会人なくして弁護人と接見することが認められており、被疑者・被告人と弁護人は、その接見内容を捜査機関によって知られることのない秘密交通権を保障されている。秘密交通権は、接見中はもちろんのこと、接見後であっても、捜査機関がこれに立ち入ることのできない不可侵の権利である。
 秘密交通権が保障される根拠は、被疑者・被告人の人身の自由等が不当に侵害されることを防止し、捜査機関の圧力を受けることなく、その防御活動を十全ならしめるとともに、そのことを通じて、国家の刑罰権の発動あるいは捜査権の行使を適正ならしめ、冤罪を防止し、真実の発見に資することにある。したがって、このような秘密交通権を侵害する違法な捜査は、それ自体として決して許されない。
 上記事件において、捜査機関が敢えて秘密交通権を侵害する挙に出たのは、否認している被疑者から自白を獲得し維持させることにあったのはいうまでもない。わが国の刑事裁判では捜査段階において作成された自白調書がきわめて重視される傾向があるため、捜査機関は、被疑者取調べの最大の目的を自白の獲得においている。現に、わが国では、これまで密室での取調べで作成された被疑者本人や共犯者らの虚偽の自白調書によって無実の者が処罰されるという悲劇が繰り返されてきた。しかも、公判廷で捜査段階における供述の任意性・信用性が争われることになっても、取調べがまさに密室で行われたものであるがゆえに、その内容を客観的に検証するのはほとんど不可能であって、多くの場合水掛け論に終始し、結果として被告人の主張が認められることは極めて少なく、裁判の長期化も招いてきた。このように、密室において暴行、脅迫、利益誘導などといった人格の尊厳を損なう方法で自白を強要する違法・不当な取調べを抑止し、捜査権の適正化を図るには、取調べの全過程を可視化(録音・録画)することが必要不可欠である。それによってはじめて取調べの適正化が進み、秘密交通権を侵害するような違法捜査を防いで、その過程を事後的・客観的に検証することができるようになり、ひいては冤罪の根絶に大きく寄与する。ことに、市民が刑事裁判に参加する裁判員制度は、2009年5月までに実施される予定であるが、捜査段階での自白調書が極めて重視される現在のような裁判が続けられる限りは、到底その円滑な運用を図ることはできない。この点においても、取調べの可視化は喫緊の課題である。
 よって、当連合会は、捜査機関に対して、弁護人と被疑者・被告人との秘密交通権を尊重して、これを侵害しないよう強く求め、その防止に全力を挙げて取り組むとともに、国に対し、すべての刑事事件について、取調べの全過程を録音・録画により可視化する制度を早急に確立するよう強く求め、その実現に向けて全力を挙げて取り組むことをここに宣言する。

2005(平成17)年10月28日
九州弁護士会連合会

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