決議・声明

新たな共謀罪法案の国会提出に反対する会長声明

2017.03.10

 平成29年3月10日

                                                                                    鹿児島県弁護士会
会長 鑪 野  孝 清

各報道によれば、政府は、これまで広範な世論の強い反対により過去3度にわたって廃案となった共謀罪法案について、その名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変更した上、同法案を本年1月20日に召集された通常国会へ提出することを検討していると報じられている。その内容は、適用対象を従前の「団体」から「組織的犯罪集団」とし、新たに「準備行為」を処罰要件とするなどとされている。
我が国の刑事法体系は、行為処罰・既遂処罰の原則、すなわち法益侵害に向けられた具体的危険性のある行為に対し、かつ、法益侵害の結果が発生した場合に処罰することを原則とし、重大な犯罪について未遂犯や予備罪等を例外的に処罰することを定めている。これは、市民の人権を保障するため、かつて行われてきた国家の恣意的な刑罰権行使を排除するための刑事法の基本原則である。
ところが、共謀罪法案は犯罪遂行の合意そのものを処罰することを本質としており、法益侵害の具体的な危険性が何ら存在しない段階を処罰するもので、行為処罰・既遂処罰の原則に反するものである。新たな共謀罪法案は、その要件に「準備行為」を加えるようであるが、その概念は不明確で、未遂犯や予備罪等に至らない程度の法益侵害の危険性が希薄な行為をはじめ、解釈次第では日常的な行為に至るまで広範な行為が該当するとされるおそれがあるため、処罰範囲の限定足りえず、犯罪遂行の合意を処罰するこれまでの共謀罪法案とその本質はなんら異なるものではない。
そして、「犯罪的組織集団」、「準備行為」という要件は、その内容が極めて曖昧なため、捜査機関の恣意的な解釈・運用を許し、不明確な線引きのまま一般市民の表現の自由や、思想・良心の自由を侵害するおそれすらある。加えて、共謀を実効的に取り締まるため、盗聴や密告、おとり捜査などの捜査手法に頼らざるを得ず、かかる人権侵害のおそれがある捜査手法が広範に行われることとなり、まさに一般市民に対する「心の中の監視」がはびこる社会を招来し、一般市民の自由な行動、表現活動を委縮させ、民主主義の根幹を揺るがすことになりかねない。
そもそも政府が共謀罪新設の根拠とする「国連越境組織犯罪防止条約」は、金銭や物の流通を目的とするマフィアや暴力団を対象とするものであり、テロ防止を目的とするものではない。我が国はすでにテロ防止を目的する13の条約を批准しており、国内法化されている。また、現時点でも未遂前の段階で取り締まることのできる予備・共謀罪等が70以上あり、これらの国内法の適用により、テロを未然に取り締まることが可能である。
共謀罪法案により共謀罪の適用対象となる犯罪は広範に及ぶが、現行の刑罰法規によりテロへの対策が可能と思料されるにもかかわらず、なにゆえかかる広範な処罰規定を新設する必要があるのか、説得的な説明はなされていない。報道では、処罰対象が広範に過ぎるとの批判を受け、処罰対象とする犯罪をこれより半分以下に減らすことが検討されているようであるが、立法の必要性及び刑罰法規としての明確性に重大な疑問が存することに変わりはない。
このように新たな共謀罪法案は、刑事法の根幹である行為処罰・既遂処罰の原則に反し、憲法の定める表現の自由や思想・良心の自由を侵害するおそれの強いものであるから、当会は、同法案の国会提出に強く反対するものである。

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