決議・声明

非弁行為に関する会長声明

2021.05.11

1 鹿児島県司法書士会所属の認定司法書士による非弁行為を認定した判決が言い渡され,同判決が確定したこと

令和2年12月23日,鹿児島地方裁判所は,鹿児島市内において司法書士業を営む鹿児島県司法書士会所属の認定司法書士に対し,同認定司法書士が依頼者との間で締結した委任契約が弁護士法72条に違反し,民法90条に照らして無効であるとして,依頼者への報酬金の請求を全部棄却する判決を言い渡し(鹿児島地方裁判所令和2年(レ)第1号 報酬金請求控訴事件),同判決は令和3年4月16日に確定した(福岡高等裁判所令和3年(ツ)第14号)。

上記判決によると,上記認定司法書士は,依頼者との間で,明らかに弁護士法に違反する内容の委任契約を締結したにとどまらず,これに沿って委任事務を処理した上,回収額が140万円を越える部分に対応する成功報酬を請求し,自ら原告となって訴訟を提起し法的手続にも及ぶなど,一貫して弁護士法72条,司法書士法3条等の法令に違反する態度を取っていたとされている。

以上を踏まえ,上記判決は,上記認定司法書士の一連の行動に関し,認定司法書士としての職分を大きく逸脱するとともに,結果的に依頼者の適正な損害賠償を受ける利益を失わせるものであって,法律専門職としての司法書士の職責(司法書士法2条)に照らして許されるものではないと厳しく断じた。

2 非弁護士による法律事務の取扱いが禁止されている趣旨について

弁護士法72条は,法律に別段の定めがない限り,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,法律事件に関し,代理等の法律事務を取り扱うことを業とすることはできないことを定めている。

そして,司法書士法3条1項6号及び7号は,認定司法書士に対し,紛争の目的の価格が140万円を越えない民事紛争についての代理権限等を付与しているにすぎないから,認定司法書士が,報酬を得る目的で業として紛争の目的の価格が140万円を越える民事紛争についての法律事務を処理することや,同法律事務についての委任契約を締結することは弁護士法72条に違反し,同法77条3号により,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が課されうる違法行為に該当する。

以上のような法令が定められた趣旨は,能力的担保がなく,厳重な監督に服さない非弁護士に対して法律事務の取扱いを認めると,依頼者の利益のみならず,関係者や健全な法秩序そのものが害される危険があり,そのような弊害を防止することにある。

3 非弁行為に対する調査及び対処を継続し,弁護士による適正な法律事務の処理を享受する市民の利益を守る必要があること

ところで,本声明で問題としている鹿児島地方裁判所による上記判決記載の事例は,司法書士資格を保持している者が,司法書士の業務として,弁護士法72条に違反する行為を行った点に特徴がある。

もとより,司法書士資格や行政書士資格等の資格を有する者が,司法書士法や行政書士法その他の法令により法律事務の取扱いを許容されている場合において,法定の要件を遵守して法律事務を取り扱うことは違法行為ではない。

しかしながら,これらの専門職が,法定の要件を遵守せずに法律事務を取り扱う場合,能力的担保も厳重な監督もないままに法律事務の取扱いを行うという点で,いわゆる事件屋が暗躍する場合と実質的に差異はなく,依頼者又は関係者の利益や健全な法秩序そのものが害される危険は高い。むしろこのような場合,司法書士資格や行政書士資格に対する一般市民の信頼感が背景に存在するという点において,善良な市民に対する被害が拡大する恐れがある。かかる事例が多数発生した場合,究極的には法の支配の空洞化につながりうるものであり,座視することはできない。

当会は,引き続き,非弁行為に対する調査及び対処を継続し,弁護士による適正な法律事務の処理を享受する市民の利益を守る所存である。

4 司法へのアクセス障害を解消する必要があること

反面,当会は,非弁行為を業とする者が世に存在することの一因が,司法へのアクセス障害にあるという指摘にも真摯に向き合わなければならない。

我が国においては,地理的理由・経済的理由・心理的理由等の様々な理由で,弁護士や裁判所といった司法サービスにアクセスできない市民が一定数存在することは厳然たる事実である。

本来,司法サービスは全ての人に平等に開かれているべきである。

当会は,「法の支配を社会の隅々に」という理念を実現するために,弁護士偏在の解消,法律相談会の拡充,弁護士情報の提供及び業務体制の強化等,司法へのアクセス障害の解消に向けて,引き続き尽力する。

5 結語

当会は,市民に対し,法令に違反した非弁護士の法律事務の取扱いによる被害に十分留意するよう呼びかけると共に,今後も会として非弁行為を座視することなく,その根絶を目指し,引き続き断固たる対処をしていくことを宣言する。

併せて,当会は,法の,市民の司法へのアクセス障害を解消すべく全力で取り組むことを誓う。

以上

2021(令和3)年5月10日

鹿児島県弁護士会

会長 保 澤 享 平

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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