決議・声明

特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく同法の抜本的改正を求める意見書

2023.06.13

第1 意見の趣旨

当会は、国に対し、2016年(平成28年)改正における附則第6条に基づく「所要の措置」として、以下の内容を含む抜本的な法改正等を行うことを求める。

 

1 訪問販売・電話勧誘販売について

(1)訪問販売について、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を貼っておくなどの方法によりあらかじめ拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。

(2)電話勧誘販売について、特定商取引法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すること。

(3)訪問販売及び電話勧誘販売について、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。

(4)訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録をしなければならないものとすること。

2 通信販売について

(1)通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が申込みを行い又は契約を締結した場合について、行政規制を設けること、並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。

(2)インターネットを通じた通信販売による継続的契約について、消費者に中途解約権を認めること及び中途解約の場合の損害賠償の額の上限を定めること。

(3)通信販売業者がインターネットを通じて申込みを受けた通信販売契約について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めること及び迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整備することを義務付けること。

(4)インターネットの広告画面及び申込画面において、契約内容の有利条件や商品等の品質・効能の優良性を殊更に強調する一方、有利性や優良性が限定される旨の打消し表示が容易に認識できないものを特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為として具体的に禁止すること。また、広告表示において事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告を行うこと(広告表示における透明性の確保)を法令等で明確化すること。

(5)通信販売業者が不当なインターネット広告の表示を中止した場合であっても、行政処分(指示処分及び業務停止命令)が可能であることを明示すること。

(6)通信販売業者がインターネット上で契約の申込みを受けた場合、消費者が申込み過程で閲覧した広告・申込画面及び広告動画・勧誘過程の動画を一定期間保存する義務及び消費者に対して保存内容を提供する義務を負うものとすること。

(7)特定商取引法第11条第5号及び同法施行規則第8条第1号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとすること。

(8)適格消費者団体の差止請求権について、前記(1)から(4)までの行政規制等に違反する行為等を請求権行使の対象に追加すること、及び(5)の場合に差止請求権行使の対象となる旨を明示することなど、その拡充を行うこと。

3 連鎖販売取引等について

(1)連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すること。

(2)特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。

(3)物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が、①22歳以下の者、②先行する契約として投資等の利益収受型取引の契約を締結した者、③先行する契約の対価に係る債務(その支払のための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者を獲得することにより利益が得られることを内容とする契約の勧誘及び締結を禁止すること。

(4)連鎖販売取引について、収受し得る特定利益の計算方法等を特定負担に関する契約を締結しようとする者に説明しなければならないものとすること。

(5)連鎖販売取引について、業務・財産の状況等に関する情報を特定負担に関する契約を締結しようとする者や加入者に開示しなければならないものとすること。

 

第2 意見の理由

1 特定商取引法の抜本的改正の必要性

(1)特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)は、特定の商取引類型における不公正な勧誘行為等を規制し、消費者の利益を保護することを目的とする法律である。

同法は、問題となる勧誘行為等を規制するために繰り返し改正されてきた。2016年(平成28年)の改正(以下「平成28年改正」という。)の際、附則第6条において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」として5年後の同改正法の見直しが定められている。

同改正法の施行は2017年(平成29年)12月1日であり、2022年(令和4年)12月に施行後5年の経過を迎えたこととなる。

(2)令和3年版消費者白書によると、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談は93.4万件であり、このうち特定商取引法の対象取引分野に関する相談は、全体の56%という高い比率を占めている。

この特定商取引法の対象取引分野のうち訪問販売・電話勧誘販売については、全体に占める割合は13.2%となっているものの、認知症等高齢者の中では50.9%と圧倒的な多数を占めている。このことから、超高齢社会において判断力の衰えた高齢者が悪質商法のターゲットにされていることがうかがわれ、今後更にこの傾向が強まることが懸念される。

また、世代全体においてインターネット通販に関する相談が29.5%と最多となっており、デジタル社会の進展やコロナ禍の影響もあって、インターネット通販におけるトラブルが増加していることが見て取れる。この傾向は、急速に進むデジタル社会の進展により今後更に強まると思われる。

さらに、連鎖販売取引(マルチ取引)は全体の1.1%にすぎないものの、20歳代においては5.5%と高い比率を占めており、令和4年4月に民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことによる若者のマルチ取引被害の増加が予想される。

本意見書は、これらの被害に対処するために、平成28年改正の5年後見直しを契機として、特定商取引法の抜本的改正を求めるものである。

 

2 訪問販売・電話勧誘販売について

(1)拒否者に対する訪問販売の規制

訪問販売は、消費者の自宅などに事業者が突然訪問して勧誘を開始し(不意打ち的勧誘)、事業者が勧める特定の商品の品質や必要性の説明をし(商品情報の限定性)、当該商品を購入するか否かの判断をその場で迫られ(受け身の選択行動)、直ちに契約に至る(意思形成不確定な契約行動)という特徴がある。消費者が要請していない訪問販売は、多くの消費者にとって迷惑であるばかりか、不意打ち的な勧誘により、消費者が不本意な契約をしてしまうことも少なくない。そのため、特定商取引法第3条の2第2項は、契約を締結しない旨の意思表示をした者に対し、勧誘をしてはならないと定めており、消費者が勧誘を拒絶したにもかかわらず、訪問販売を行うことは許されるべきではない。

この点、消費者庁は、同項について「訪問販売お断り」と記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を家の門戸に貼付することについて、意思表示の対象や内容、表示の主体や表示時期等が必ずしも明瞭でないとして、同項の「契約を締結しない旨の意思」の表示に該当しないとの解釈を示している。

しかし、このような解釈を採用すると、消費者があえてステッカーを貼付しているにもかかわらず結局は勧誘に対応することを強いられることになり、その結果、不本意に勧誘を受け入れることを応諾させられてしまう恐れがある。そもそも、同規定は、意思の表示方法として、ステッカー等の文書その他の表示によるものを排斥しているわけではない。また、多くの自治体が消費生活条例等においてステッカーに効力を認めているところ、消費者庁も、これら条例上の効力を認めており、その解釈は一貫性を欠くものとなっている。

これらの点に鑑み、現在の消費者庁の解釈は直ちに改められるべきであり、解釈上の疑義を残さないために、ステッカーにより拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすべきである。

(2)拒否者に対する電話勧誘販売の規制

電話勧誘販売についても、訪問販売と同様に、消費者が勧誘を拒絶したにもかかわらず、電話勧誘販売を行うことは、許されるべきではない。

特定商取引法第17条は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止している。

そこで、消費者が意に反する電話勧誘(接触)を受けないようにするためには、Do-Not-Call 制度、すなわち、電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録することとし、登録された番号には事業者が電話勧誘することを禁止する制度を導入すべきである。なお、その際には、登録機関の保有する電話番号を事業者側が照会する制度(リスト洗浄方式)を採用するべきである。

(3)勧誘代行業者の規律

特定商取引法における訪問販売及び電話勧誘販売についての行為規制は、「販売業者」及び「役務提供事業者」(以下「販売業者等」という。)であるが(同法第2条第1項参照)、近年、訪問販売や電話勧誘販売にあってもアウトソーシングの活用が進み、勧誘行為を他の業者に委託する例が増えている。アウトソーシングされ、実際に勧誘を行っている業者に対し、どのように規制が及ぶのか現行法上必ずしも明らかでない場合がある。

しかし、訪問販売及び電話勧誘販売に対する規制の核心は、その勧誘行為にあるのであって、勧誘行為そのものを直接行っている事業者を行為規制の対象外とするのは妥当ではない。

したがって、契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の訪問販売及び電話勧誘販売の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすべきである。

(4)販売業者等の登録制

訪問販売や電話勧誘販売は、店舗販売と比較して、店舗を持つことなく営業を行うことが可能であることから、信用力の低い事業者の参入も容易である。また、不正な行為を行いながら、その所在や名称を変えて事業を繰り返すことも可能である。

そこで、訪問販売や電話勧誘販売においても、店舗販売に準ずる信頼を確保するため事業者の登録制を採用すべきである。

 

3 通信販売について

(1)インターネットを通じた勧誘、アクティブ広告の誘引による申込み、契約の行政規制、クーリング・オフ及び取消権の新設

特定商取引法の通信販売は、消費者がカタログを閲覧して申込みをする形態や、インターネットで消費者が自らウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態が想定され、かかる取引形態に対応する規制が設けられてきた。このため、訪問販売のような不意打ち性、密室性、攻撃性といった要素がないとされ、訪問販売などのような氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止等の行為規制が設けられておらず、また、特定商取引法の類型の中で通信販売のみクーリング・オフ制度や不実告知による取消権といった民事上の規定もない。なお、通信販売においては、返品制度はあるが、特約によって排除、変更することが可能となっている。

しかし、近年、通信販売で急増している消費者トラブルにおいては、消費者が自ら積極的に通信販売業者のウェブサイトを閲覧して申込みをするのではなく、消費者が利用しているSNSを通じてメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たりしたこと等がきっかけでインターネットを通じて事業者やその関係者から勧誘され、申込みに誘導される例が多い。このようなメッセージや広告の表示は、消費者からすれば、突然一方的に示されるものであり、不意打ち性が高い点で、訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題点がある。また、こうしたインターネットを通じた勧誘は、消費者のスマートフォンやパソコン等の私的領域内で行われ、一対一でのやり取りが中心となるため、密室性が高い点で、やはり訪問販売や電話勧誘販売と類似する点がある。また、SNS等による繰り返しの勧誘や、動画等も利用した勧誘は、攻撃性が高い点で訪問販売に類似し、インターネットを通じた勧誘は、相手が見えず、相手の素性や様子が分からないまま勧誘されるため、匿名性が高い点で電話勧誘販売と類似する。さらに、SNS等でのやり取りやウェブ説明会、動画サイト、無料通話アプリによる通話等に基づいて契約締結がなされる場合、契約の内容が曖昧・不確実になりやすい点でやはり電話勧誘販売と類似する点があるという特徴がそれぞれにある。さらに、インターネットを通じた勧誘でも、無料通話アプリの通話によって勧誘された場合、電話勧誘販売に該当する場合も多いが、事業者が通信販売であると主張してクーリング・オフに応じない事案が発生しており、通信販売が事実上の抜け穴として悪用されている実態もある。

このように、インターネット通信販売は、訪問販売や電話勧誘販売との類似性が強いところがあり訪問販売や電話勧誘販売と同様の規制が必要である。また、業者が電話勧誘販売であるにもかかわらず通信販売であると主張してクーリング・オフに応じない事案に対応できるように規制する必要性もある。

とりわけ、ターゲティング広告は、従来のチラシ広告と異なり、検索・閲覧履歴やGPS情報等を用いて趣味嗜好や生活圏等によってターゲットとする消費者を絞り込んだ上で当該広告によって即座に申込みをさせる意図の下で提供される。また、広告の内容は、「商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような内容」である(クロレラチラシ配布差止請求事件最高裁判決・最判平成29年1月24日)。そして、広告に表示されたリンクから誘導された申込画面によって申込みをする場合、広告と申込みの意思表示との因果関係も明瞭である。これらの特徴からすれば、ターゲティング広告による誘引は、消費者の契約締結の自主性を阻害するものであり、まさに「勧誘」そのものと評価できるものである。

また、ターゲティング広告は、消費者が別の目的でスマートフォン等の画面を見ている際に、突然割り込んで表示されるため、消費者は他の選択肢を能動的に検討しない傾向となり、心理的には事実上比較購買が困難になる。こうした特徴からすれば、訪問販売等と同様、不意打ち的に消費者への働き掛けをするものと言える。さらに、ターゲティング広告は、掲載できる情報量が多く、購買意欲をそそる表現を繰り返し掲載することができる(「今だけ」、「あと〇個のみ」、「初回無料!」等)。これにより、消費者にとって契約締結の判断に影響を与える重要な事項を相対的に埋没させ、正確な情報の取捨選択を困難にするという問題がある。

以上のような通信販売の問題点に鑑み、行為規制として、訪問販売等と同様の氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止、債務の履行拒否・不当な遅延の禁止、過量販売の禁止、迷惑を覚えさせる勧誘・解除妨害行為の禁止、判断能力不足に乗じた契約締結の禁止、顧客の知識・経験・財産状況に照らし不当な勧誘の禁止、契約書面に虚偽記載をさせる行為の禁止、金銭を得るための契約を締結させるための行為の禁止、消耗品の誘導開封の禁止等を設けるべきである。また、民事上の規定として、消費者によるクーリング・オフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権を規定するべきである。

(2)インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権の新設

通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、消費者が契約内容を十分に理解しないまま契約を締結することも少なくない。実際に役務の提供を受けてみると消費者が想定していた役務内容と異なっていたり、長期間の契約中に事情が変わり消費者にとって契約が不要となるなど、中途解約を可能とすることが必要となる場合がある。ところが、継続的契約の場合、消費者が高額な代金を負担している場合が多く、消費者は中途解約をする必要性が高いにもかかわらず、容易に解約でき ない、解約できるとしても高額な違約金を請求されるという場合がある。

このような継続的契約について民法上明確な規定は存在せず、特定商取引法においても、特定継続的役務提供契約における指定役務についてしか中途解約の規定が存在しない。また、近年トラブルの多い定期購入契約についても、中途解約を認める規定が存在しない。

以上のような問題点から、インターネット通信販売における継続的契約については、特定継続的役務提供と同様の中途解約権(理由を問わず将来に向かって契約を解消する解除の趣旨)を新設し、中途解約の場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。

(3)解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務

インターネット上の通信販売に関するトラブルにおいて、ウェブサイト上で購入の申込みを受け付けている通信販売業者がウェブサイト上での解約受付体制を設けていない場合があり、また解約受付に際して申込み時に提供した個人情報に加えて個人情報に関する証明資料等を要求し、そのため事実上、解約・返品が困難になっているケースがある。近年増加しているサブスクリプション契約でも解約方法が分からない等のトラブルが発生している。また、「電話による解約のみ受け付ける」旨を表示しておきながら、消費者が業者に架電してもつながらず、その間に解約申出可能期間が経過してしまったことを理由に解約・返品を拒まれるケースも散見される。

しかし、現在、通信販売業者による解約・返品に関する受付体制整備義務や、解約・返品の申出方法(解約受付方法)について、特段の規制はない。

そこで、インターネット通販による契約の申込みを受け付ける通信販売業者が解約・返品特約(解約方法)を定める場合はもちろんのこと、このような特約がない場合であっても、消費者が解約を希望する場合、契約申込みと同様の方法(ウェブサイト上の手続)による解約申出の方法を認めることを通信販売業者に義務付けるべきである。また、解約・返品の申出に当たり、申込みの際に解約・返品申出者が事業者に提供した情報に追加して個人情報の証明資料を要求することを禁止すべきである。さらに、電話による解約を認める場合、消費者が解約期間内に架電したにもかかわらずつながらなかったことにより同期間が経過した場合、当該事業者が「正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたとき」にあたるものとして、同期間内に解約の申出があったものとみなすこと(民法第97条第2項)を確認する規定を新設すべきである。

(4)インターネット広告画面に関する規制の強化

定期購入のトラブルが発生しているインターネット広告画面の中には、消費者の誤認を招く不公正な表示がなされている事例が少なくないが、特定商取引法第11条の広告表示義務の規定では、所要事項が広告のどこかに表示されていれば、それ自体に「著しく虚偽」又は「誇大な表示」がない限り、表示義務に違反していないと解される可能性がある。また、誇大広告等の禁止に該当するための要件(同法第12条)は「著しく」等と抽象的かつ不明確であるため、脱法を狙う事業者の行為を規制しきれていない。さらに、健康食品や化粧品についての定期購入契約では、商品の品質・効能等につき「著しく優良であると誤認させるような広告」によるトラブルが多発しているが、現在の広告規制では、優良誤認該当性の要件が抽象的かつ不明確であり、規制として不十分である。

以上の問題点からすれば、インターネット広告画面について契約内容の有利条件と不利益条件、商品等の品質や効能等が優良等であることを強調する表示とその意味内容を限定する打消し表示を、それぞれ分離せず一体的に記載するルールを設けるべきである。その上で、それに反する表示を特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為(顧客の意に反して申込をさせようとする行為)に加えるともに、禁止される表示例をガイドライン等で明確化すべきである。

また、商品及び役務について自主的かつ合理的な選択の機会が確保されることは消費者の権利であることから、その権利の実現のため、消費者が取得しようとする商品・役務に関して、事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告表示を行うこと(広告表示における透明性の確保)を法令等で明確化すべきである。

(5)インターネットの表示を中止した場合の行政処分

通信販売業者が誇大広告等の禁止行為に違反した場合や、特定申込みを受ける場合の映像面における人を誤認させるような表示の禁止(特定商取引法第12条の6第1項)等に違反した場合は、主務大臣による行政処分を行うことができる。    この行政処分の要件は、「通信販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるとき」(特定商取引法第14条第1項柱書、同法第15条第1項柱書)であるところ、通信販売業者は、インターネット広告や特定申込みを受ける場合の画面の表示の中止・削除を容易に行い、「利益が害されるおそれ」が消滅したと反論することがある。また、いつでも画面の再表示が可能であるから、表示を中止した場合に行政処分ができないとすれば不当な広告表示等を抑止して消費者の利益を保護しようとした法の趣旨が没却される。

以上のような問題点からすれば、通信販売業者がインターネット広告や特定申込みを受ける画面の表示を中止した場合でも行政処分が可能であることを法令上明確にするべきである。

(6)インターネット上の広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存、開示、提供義務

インターネット通信販売における定期購入契約のトラブルにおいては、広告画面及び申込画面に一定期間の定期購入契約であることなどの契約条件が適切に表示されていたか否かが問題となることが多い。近時は、動画を用いた副業・儲け話などの広告・勧誘がインターネット上で行われるケースも少なくないという現状がある。

このようなインターネット通信販売における定期購入契約のトラブルにおいては、購入者が通信販売業者に対し、一定期間の定期購入契約であることなどの契約条件が広告画面及び申込画面に適切に表示されていなかった旨を申し出ても、事業者側から適切に表示していた旨の反論がなされることがある。しかし、消費者が広告・申込画面、広告・勧誘動画等を保存していることは多くはなく、消費者が当時の広告・申込画面や広告・勧誘動画の内容を立証することは困難である。

以上のような問題点からすれば、消費者の取消権等の実効性確保のために、通信販売業者に対し、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務を認めるべきである。また、インターネット通信販売においてはアフィリエイト広告等、事

業者から委託を受けた者による広告・動画を見て購入に至る場合も多く、アフィリエイト広告・動画も上記義務の対象とするべきである。

(7)連絡先が不明の通販事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)

民事訴訟を提起するためには、訴状に「当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所」(以下「当事者の氏名又は名称及び住所等」という。)を記載しなければならない(民事訴訟法第133条、民事訴訟規則第2条第1項第1号)。しかしながら、特定商取引法上の表示義務は、「広告をするとき」に限られているため、個別の勧誘時に販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号の表示義務が及ぶかは文言上明らかでない。また、同法第11条違反の場合の指示及び業務停止命令の対象は販売業者又は役務提供事業者に限られており、広告又は勧誘を行ったものが販売業者又は役務提供事業者から独立している場合、行政規制の対象にならない。さらに、プロバイダ責任制限法は、発信者情報開示の対象となる権利侵害行為を「特定電気通信」(同法第2条第1号)、すなわち「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」によるものに限定しており、詐欺的な広告、勧誘を経た通信販売による財産被害には用いることができないため、結果的に、販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号を特定できないことがほとんどである。

以上のような問題点からすれば、特定商取引法第11条第5号及び同法施行規則第8条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとする立法措置を講ずるべきである。

(8)適格消費者団体の差止請求権の拡充

以上の点についての実効性を担保するために、適格消費者団体の差止請求権の対象として、通信販売事業者について、前記(1)において提案する取消権の対象となる行為、同(1)において提案するクーリング・オフや同(2)において提案する中途解約権を制限する特約や妨害行為、同(3)の解約等への受付体制整備義務に違反する行為、同(4)の広告規制等に違反する行為を追加するべきである。また、事業者が違反行為を中止した場合であっても、同種行為の再開のおそれがあるときは、前記(5)の行政処分のみならず、適格消費者団体の差止請求が可能であることを特定商取引法に明示すべきである。

 

4 連鎖販売取引等について

(1)連鎖販売業に対する開業規制の導入

全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)によるマルチ取引に関する消費生活相談の件数は、近年も毎年1万件以上あり、現状の規制では悪質なマルチ取引を抑止できていない。また、2020年度(令和2年度)の相談件数のうち49%を29歳以下が占めており、若年者がトラブルに遭う割合が増加している。そして、近時は、各種の投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)等の利益収受型の物品又は役務を対象に販売を拡大する手法としてマルチ取引を用いる、いわゆる「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加している。勧誘方法も、若年者を対象に、メールやSNS(コミュニケーションアプリ、マッチングアプリ)等インターネット上の匿名性の高いツールを利用したものが増加しており、組織の実態、中心人物や自分を勧誘した相手方の特定もできない等、被害回復が困難なケースが増えている。

従前から、金融商品取引業に該当する行為を無登録で行う金融商品取引法に違反するものや、実態が無限連鎖講の防止に関する法律に違反する金品配当組織であるようなものが、連鎖販売取引の手法を用いて被害を拡大させるケースも繰り返されている。

連鎖販売取引においては、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり、取引が継続することが想定されることから、連鎖販売取引業者においては、組織、責任者、連絡先等を明確化し、取引商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルを生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確化が求められるところである。

以上のような問題点から、連鎖販売業に対する開業規制の導入連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入するべきである。

(2)後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加

近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」という。)のトラブルが増えている。後出しマルチは、大学生などの若者がターゲットにされ、投資に関する情報商材やセミナー、自動売買ソフト、副業のコンサルタント・サポートなどの利益収受型の物品又は役務の契約が先行してなされるものが多い。

後出しマルチでは、容易に利益が得られるかのような誘引行為により、借入れをしてまで契約の締結に至ったものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られない事態となった場面で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益が得られることを誘引文句として持ち出すことにより、借入金の返済に窮した契約者が自らも勧誘員として新規契約者の勧誘に走るという構造にある。このような手法によって勧誘者となった契約者は、十分な知識を有していないままに自らが陥れられた時と同様の手法によって新規契約者を勧誘し、新規契約者を獲得することで利益を得ることを目的とした不当勧誘が連鎖的に拡大していく。

以上のような問題点から、特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確させるべきである。

(3)不適合者に対する紹介利益提供の勧誘等の禁止

① 先行する契約の相手方が22歳以下の者である場合

22歳以下の者は、成人ではあっても学生であったり、就労してはいてもその年数が浅いなど社会的経験が乏しかったりする。これらの者のマルチ取引によるトラブルも多く発生している。そのため、かかる者との間のマルチ取引は適合性原則に違反するものであり52、事後的な紹介利益提供の勧誘等も禁止するべきである。

② 先行する契約の相手方が投資等の利益収受型の取引を締結した者である場合

後出し型連鎖販売取引の項(前記4(2))において述べたとおり、利益収受型取引の相手方に対して後出しで紹介利益の収受を勧誘することは、不当勧誘行為を連鎖させる構造にあり、不適正な勧誘が繰り返されていくことにつながるおそれが大きく、紹介利益提供の勧誘等は禁止すべきである。

③先行する契約の相手方が当該契約の対価にかかる債務(その支払のための借入金、クレジット等の返済)を負担している者である場合

先行する物品販売等の契約に基づく債務を負担している者は、その支払を行わなければならない状況にあるため、不実告知や断定的判断の提供、強引な勧誘等の不適正な販売方法につながるおそれが大きいことから、かかる者に対する紹介利益提供の勧誘等は禁止するべきである。

(4)連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設

連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者及び他の構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種であると考えることができる。また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から、「必ず儲かる」等の不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすく、誤認による契約を招くおそれがある。

そこで、当連合会が既に提言しているとおり、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部又は一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付けるべきである。さらに、概要書面及び契約書面にも記載しなければならないものとするべきである。

(5)連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設

同様の理由から、①統括者がその連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、又は役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均額及び中央値の額を概要書面及び契約書面に記載することを義務付けるとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務及び財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。

 

2023(令和5)年5月23日

鹿児島県弁護士会

会長 湯 ノ 口 穰

 

 

 

 

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