決議・声明

オンライン接見の法制度化を求める会長声明

2023.08.22

1 法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会、(以下、「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進んでいる。本部会では、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方式)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法39条1項の接見として位置付けることが検討されている。

2 身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、刑事施設・留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、身体拘束の当初から、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。憲法34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受け刑訴法39条1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている

現代のIT化社会では、弁護人が被疑者・被告人とビデオ会議システムを用いて対面したり、電子データ化された書類の授受を行うことも、現実的・必要的な手段である。

したがって、かかる現代の状況下では、オンライン接見も、刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきである。ゆえに、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。

3 特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保証の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。

現在、日本では逮捕段階における公的弁護制度が創設されていないため、被疑者は、身体を拘束された直後の重要な時期に、弁護人の助言を受けられず、虚偽自白や冤罪の危険に曝されるという、重大な防御上の不利益を被っている。

したがって、逮捕段階においては、身体を拘束された被疑者が、要請をした直後、弁護人あるいは弁護人となろうとする者から黙秘権告知等の助言を受け、速やかに弁護人選任届の取り交わしを済ませる必要があり、地理的条件を問題としないオンライン接見は上記を実現する制度として極めて重要な意義を有する。

また、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続や公判手続の遅延を招いたり、起訴後に十分な接見が受けられない事態が生じる。裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などがその例である。こうした場合も、オンライン接見を用いて、被疑者・被告人が継続的に弁護人の援助を受けられるようにする必要が高い。

このように、現行の捜査段階の接見や公判段階の接見は、いずれも全国的な課題を抱えており、相互の問題解決のためには、遠隔地に所在する留意施設等と本庁の刑事施設等を、相互に管轄の別なく接続する必要が極めて高い。

4 現に、当会では、以下のようなオンライン接見制度創設を基礎づける具体的事情がある。

鹿児島県は、薩摩半島と大隅半島という二つの半島、そして複数の離島からなる広大な面積を有している。

本年6月30日をもって、複数の警察署留置施設が閉場されたものの、鹿児島市内から鹿屋警察署への接見、鹿屋市内から鹿児島市内の警察署への接見、鹿児島市内から離島の警察署や拘置支所への接見は回避できない。また、裁判員裁判対象事件等では、離島から鹿児島拘置支所への接見が必要となることもある。これらの接見には、片道約1時間30分を超える移動、航空機・船を利用した移動が必要となる(現状において、留置施設のある警察署や拘置支所の所在地に事務所を置く弁護士のみで、すべて対応することは困難である。)。

県内のどこで逮捕・勾留されようとも等しく、すみやかに弁護人と話ができる体制は保障されなければならない。

現在、離島警察署の一部において、電話連絡の制度利用が可能になっているが、制度上の制約も多く、何より秘密交通権が保障されたものではない。

新型コロナウィルス感染拡大下でも課題となったように、遠距離移動による感染拡大を防止する必要性は高いものの、被疑者・被告人が、弁護人と立会人なくして接見できる権利は保障され続けなければならない。

5 本部会においては、捜査機関側から、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されている。

しかし、新しい設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、捜査機関側の制度では克服されるのに被疑者・被告人側の防御上の制度の局面では克服できない、というのはおかしい。本部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、それが可能であれば、オンライン接見も可能なはずである。捜査機関の利便性のみではなく、被疑者・被告人の人権保障を最大限に拡充する観点でも、人的物的対応体制・予算措置の拡充の議論が尽くされなければならない。

また、アクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、例えば第三者が弁護人になりすましたり、罪証隠滅を図ったという事例は報告されていない。現代のITの進歩は目覚ましく、こうした弊害を除去するための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として、十分に存在しているといえる。

6 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は、法制審議会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が実現されることを強く要望する。

2023(令和5)年8月22日

鹿児島県弁護士会

会長 湯ノ口 穰

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