決議・声明

「敵基地攻撃能力」または「反撃能力」の保有に反対する会長声明

2024.03.29

政府は、2022年12月16日、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画(以下、「安保三文書」という。)を閣議決定した。

安保三文書においては、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃するための敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、すなわち、「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としての「反撃能力」の保有が明記された。

しかしながら、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は、憲法9条に違反するものであるから、当会は、上記閣議決定に強く反対するものである。

 

1 これまでの政府の憲法9条の解釈は、次のとおりであった。

⑴ 自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力であるから、自衛隊は憲法9条2項で禁止される「戦力」にあたらないが、相手国の領域に直接的な脅威を与える攻撃的兵器の保有は、憲法9条2項の禁止する「戦力」に該当するものとして許されない。

⑵ また、自衛隊の実力行使(自衛権の発動)も、「①我が国に対する武力攻撃が実際に発生し、②これを排除する、他の適当な手段がない場合に、③その武力攻撃を排除するための必要最小限度の実力行使に限る」との3要件を満たす場合に限定されるから、自衛隊の実力行使は、憲法9条1項で禁止される「武力の行使」にあたらない。

2 ところが、安保三文書にいう「反撃能力」の保有は、従来の政府の憲法9条の解釈を逸脱し、明らかに憲法9条に違反するものである。

すなわち、安保三文書にいう「反撃能力」は、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を直接攻撃する能力を有するものであるから、その「反撃能力」の行使は、上記②及び③の要件に反し、憲法9条1項に違反するとともに、その能力を保有することは,憲法9条2項にも違反する。なお、後記のとおり、我が国が①の要件の判断を誤った場合、我が国が先制攻撃に至る事態も想定され、憲法9条1項に違反することになる。詳論すれば、次のとおりである。

⑴ 飛来する弾道弾ミサイルが我が国の領域に着弾する前に迎撃ミサイル(イージス艦による上層での迎撃及びペトリオットによる下層での迎撃)で直撃することにより日本国民の生命、自由及び幸福追求の権利を守ることが可能である以上、「他の適当な手段がない場合」(上記②の要件)とは認められず、「反撃能力」の行使は、上記②の要件に反する。よって、安  保三文書にいう「反撃能力」の行使は、上記②の要件に反し、憲法9条1項に違反する。

⑵ また、「反撃能力」は、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を直接攻撃する能力を有するものであるから、「武力攻撃を排除するための必要最小限度の実力行使」(上記③の要件)とも認められず、上記③の要件にも反する。よって、安保三文書にいう「反撃能力」の行使は、上記③の要件に反し、憲法9条1項に違反するのである。

⑶ さらに、前記のとおり、そもそも政府のこれまでの解釈は、相手国の領域に直接的な脅威を与える攻撃的兵器の保有は、憲法9条2項の禁止する「戦力」に該当するものとして許されないというものであったから、「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としての「反撃能力」の保有は、「相手国の領域に直接的な脅威を与える兵器の保有」という意味において、憲法9条2項の禁止する「戦力」に該当するものとして許されないことは明らかである。

⑷ 加えて、ミサイル技術が発達した今日では、その発射方法が多様化しており、上記①の要件である「我が国に対する武力攻撃が実際に発生したか否か」、「相手国が我が国に対する攻撃に着手したか否か」の判断が極めて困難であることから、我が国がその判断を誤り、相手国より先に攻撃することになった場合には、国際法上も違法とされる「先制攻撃」(国連憲章2条4項及び51条)に至る事態が想定され、上記①の要件に反することになる。よって、その場合、安保三文書にいう「反撃能力」の行使は、上記①の要件に反し、憲法9条1項に違反することになる。

3 そもそも、長年に亘って確立され、日本国民に浸透している政府の憲法9条の解釈を、憲法改正手続を経ることなく変更することは、「政府が憲法に基づく政治を行わなければならない」とする立憲主義に反する。また、我が国が相手国の領域に直接攻撃を加える敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有すること自体、かえって近隣諸国に脅威を与えると同時に不信を呼び起こし、際限のない軍拡競争を招くことになる。さらに、際限のない軍拡競争は、我が国と近隣諸国との不信感の増大や、緊張関係を高めることになり、現実の戦争を招くことにもなりかねない。閣議決定による安保三文書にいう「反撃能力」の保有は、政府の行為によって再び戦争の惨禍をもたらすことにもなりかねないのである(憲法前文)。

政府のなすべきことは、「反撃能力」の行使により相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃することではなく、飛来する弾道弾ミサイルが我が国の領域に着弾する前に、徹頭徹尾、迎撃ミサイルで直撃することにより日本国民の生命、自由及び幸福追求の権利を守ることである。と同時に、政府は、憲法が掲げる恒久平和主義、国際協調主義の原理に基づき、国際平和の維持のために最大限の外交努力を尽くすべきものである。

4 以上のとおり、安保三文書の閣議決定は、憲法9条に反し、閣議決定により憲法違反の施策を進めることは立憲主義及び国民主権に反することから、当会は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に対して、強く反対するものである。

2024(令和6)年1月24日

鹿児島県弁護士会

会長 湯 ノ 口 穰

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