決議・声明
鹿児島県警察による捜査書類の廃棄を促す内部文書に強く抗議する会長声明
1 鹿児島県警察が令和5年10月2日付で、同警察内で発出した「刑事企画課だより(以下、「本件文書」という。)」において、
「※最近の再審請求等において、裁判所から警察に対する関係書類の提出命 令により、送致していなかった書類等(以下「未送致書類」という。)が露呈する事例が発生しています。この場合、「警察にとって都合の悪い書類だったので送致しなかったのではないか」と疑われかねないため、未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄する必要があります」
「※再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」
との記載があり、捜査書類の廃棄を促していたという事実が判明した。
2 鹿児島県警察は、令和6年6月21日の記者会見において、本件文書において周知しようとしていた内容は、「必要な書類は検察庁に確実に送致すること、その写しなどがある場合にはこれを適切に保管・管理するということ」であったが、本来の趣旨とは異なる受け止めを招く不適切な表現・内容であった旨説明した。
しかしながら、本件文書は、組織防衛のために、未送致書類の積極的廃棄を促したものである、としか受け止めようがない。
3 我が国の刑事訴訟法は、司法警察員が犯罪の捜査をしたときは、原則として全事件を検察官に送致しなければならないことを規定し(刑事訴訟法246条)、事件の送致を受けた検察官において公訴を提起するか否かを判断する構造をとる(同247条、248条)。
公益の代表者たる検察官(検察庁法4条)は、「被疑者・被告人等の主張に耳を傾け,積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め,冷静かつ多角的にその評価を行う」(「検察の理念・4」)ことが求められている。つまり、検察官は有罪方向の証拠のみならず、無罪方向の証拠をも総合的に評価して、起訴・不起訴の判断をしなければならない。
このような刑事訴訟法の構造からすれば、少なくとも、第一次的捜査機関にすぎない警察は、組織的にプラスになるか否かという視点により、あるいは誤った有罪志向によって、廃棄できる立場にない。
そのようなことを許せば、検察官の公訴についての判断を誤らせることになり、ひいては、えん罪事件につながる危険があることは、指摘するまでもない。
4 さらに、最高裁判所平成19年12月25日決定においては、証拠開示命令の対象は、検察官が現に保管している証拠に限られず、警察が保管し検察官において入手が容易なものも含むと解されるとした。
これを前提とすれば、警察の判断で、証拠を廃棄することは、法が許容していないと言うべきである。
本件文書は、裁判所からの開示命令を視野に入れながら未送致書類の廃棄を促しており、裁判所における証拠開示を蔑ろにするものであると言え、言語道断である。証拠隠滅であると言っても過言ではない。
5 いわゆる大崎事件では、事件から数十年後の第2次再審即時抗告審及び第 3次再審請求審において、捜査機関が保有していた証拠が、裁判所の指示に捜査機関が応じる形で段階的に開示され、真実の解明に近づいたという経緯もある。
6 当会は、我が国の刑事訴訟法の構造に反する、上記「刑事企画課だより」の内容に強く抗議するとともに、鹿児島県警察に対して、恣意的判断により、証拠を未送致としたり、廃棄したりすることのないよう、強く求める。
以上
2024(令和6)年7月1日
鹿児島県弁護士会
会長 山口 政幸