決議・声明

選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める会長声明

2025.12.18

民法第750条は,「夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する」として,夫婦のいずれか一方が婚姻に際して姓を改めることを義務づけている。しかし,氏名は個人の人格と社会生活の基盤を構成し,自己同一性を保持するための重要な権利である。婚姻に当たり,当事者が望まない氏の変更を余儀なくされることは,憲法第13条の個人の尊厳,第14条の法の下の平等,第24条に定める婚姻に関する両性の平等と自己決定権の趣旨に照らし,重大な問題を含んでいる。

現実には,婚姻によって改姓する当事者の約95%が女性であり(厚生労働省「人口動態調査」2021年),改姓の負担が女性に偏在する状況が続いている。改姓に伴い,職業上の実績,研究業績,資格登録,取引関係などとの結び付きが断たれるなど,社会生活上・職業上の不利益は深刻である。また,通称使用制度は一定の便宜を与えているものの,銀行口座・不動産登記・国家資格・査証・海外渡航・身分確認を伴う契約等,法的同一性が要求される場面では戸籍名による扱いが必須であり,通称によって改姓の不利益を根本的に解消することはできない。

国際的には,夫婦同姓を法律上義務付ける制度は日本がほぼ唯一の存在であり,国連女性差別撤廃委員会は,日本に対し繰り返し婚姻前の氏の保持を可能とする制度整備を勧告している。また,自由権規約委員会等の国際機関においても,同趣旨の指摘や勧告が繰り返されている。

国内では,1996年の法制審議会「民法の一部を改正する法律案要綱」において,選択的夫婦別姓制度の導入が既に提言されている。2015年12月16日最高裁大法廷判決および2021年6月23日最高裁大法廷決定においても,夫婦同姓制度は合憲としつつ,その在り方は国会において判断されるべき「政策課題」であることが明確に示されている。

さらに,2024年6月18日に日本経済団体連合会が公表した提言「選択肢のある社会の実現を目指して―女性活躍に対する制度の壁を乗り越える―」においても,旧姓通称使用では解決し得ない制度上の障壁が指摘され,氏名の選択に関する制度改革の必要性が示されている。また,2024年6月14日,日本弁護士連合会も選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議を採択し,立法化を強く後押ししている。

これほど多くの機関が選択的夫婦別姓制度の必要性を指摘しているにもかかわらず,政府は選択的夫婦別姓制度を導入するのではなく,戸籍上の夫婦同姓を維持したまま旧姓使用を拡大する方向で,関連法案の検討を進めている旨の報道が2025年12月3日になされた。しかし,政府案は,戸籍上の夫婦同姓を維持したまま旧姓使用を拡大するだけのものであり,夫婦同姓強制に伴う問題の解決にはつながらない。法制化が行われても旧姓はあくまで“通称”にとどまり,戸籍上の氏としての法的効力を持つものではない。その結果,身分同一性の厳格な確認が求められる場面では旧姓が使用できず,改姓による不利益の主要部分は残存することになる。また,旧姓使用を認める範囲や方法は国家機関,自治体,民間事業者それぞれの判断に委ねられる方針となっており,制度運用の不統一による不便は解消されない。このように,政府が検討する旧姓の通称使用の法制化は,婚姻時の氏名変更という構造的問題に対する根本的な解決策とはなり得ない。

夫婦が同姓を選択する自由は当然に保障されるべきである。しかし同時に,別姓を選択する自由もまた同様に尊重されるべきであり,両者は相互に排斥するものではない。多様な家族の在り方を認め,個人の尊厳と平等を中心に据えた法律婚制度を構築するためには,当事者が自らの意思で氏を選択できる制度の整備が不可欠である。そして,政府が検討を進める旧姓の通称使用の法制化では,このような目的を達成することはできない。

よって当会は,国に対し,婚姻に際して各当事者が自らの意思により氏を選択できる制度,すなわち選択的夫婦別姓制度を早期に導入するため,民法第750条の改正を速やかに進めるよう強く求める。

 

令和7年12月9日

 

鹿児島県弁護士会 会長 白鳥 努

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